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思いの丈を書きます

孤狼の血-血が滾る


5月12日公開の映画「孤狼の血」を公開日に見に行ってきた。本当にサラッとしてしまうけど自分が思ったことを感想的に書いておこうと思う。

 

 

 

孤狼の血 

 

映画『孤狼の血』予告編 - YouTube

 

 

『凶悪』などの白石和彌監督がメガホンを取り、柚月裕子の小説を映画化。暴力団対策法施行以前の広島県を舞台に、すさまじい抗争を起こしている暴力団と彼らを追う刑事たちのバトルを活写する。役所広司が主演を務め、松坂桃李真木よう子滝藤賢一田口トモロヲ石橋蓮司江口洋介らが共演。昭和の男たちが躍動する。

 

昭和63年、広島の呉原では暴力団組織が街を牛耳り、新勢力である広島の巨大組織五十子会系「加古村組」と地元の「尾谷組」がにらみ合っていた。ある日、加古村組の関連企業の社員が行方不明になる。ベテラン刑事の刑事二課主任・大上章吾(役所広司)巡査部長は、そこに殺人事件の匂いをかぎ取り、新米の日岡秀一(松坂桃李)巡査と共に捜査に乗り出す。   (シネマトゥデイより抜粋)
 

 

 

 

極道映画というと一見女性は取っ付きづらい印象を覚えるかもしれないが、私はむしろ極道映画だったり不良映画だったり乱闘シーンが多い映画だったりと男臭く生々しい描写の多い映画が好きだったりする。それは多分父親の影響だろうと思う。父は昔から極道映画というものが好きだった。父は既に他界していて今はもういないが、もし生きていたとしたら必ずこの孤狼の血を見ていただろうと思う。

東映の極道映画というと仁義なき戦いが有名らしいが、父が見ていたという記憶はあるが私はその音声だけを耳にしていただけで、きちんと見たことは無い。なんてもったいないことをしていたんだろうと思う。孤狼の血を見終わった後の血が滾るような感覚のまま必ず仁義なき戦いを見ようと心に決めた。

 

 

この映画をみて私が受けた印象は、筋の通ったストーリー性も勿論圧巻なのだが、何よりも役者さんの演技がピカイチに光る作品だったのではないだろうかということ。なので私が今から書く感想は内容というよりも俳優さんに特出した書き方になっているかもしれない。そして盛大にネタバレをしているので悪しからず。

 

 

豚の鳴き声が鳴きひしめく中、拷問のシーンから始まるこの映画。始まりのインパクトは充分過ぎる程じゃないだろうか。小指を切るというのはよく極道映画であるシチュエーションのような気がして一気に作品に入れた気がする。

 

1番最初に目に入ったのはヤクザに扮する竹野内豊さんだ。私の中の竹野内さんは堅そうな格好でクール且つ正義を全うする男というイメージだ。だから今回の竹野内さんの声を荒らげながら人を脅すという姿はとても新鮮だった。しかもいい感じに大物に見えないという所もまた良い。笑

舎弟を従えて拷問をする竹野内さんはこのシーンだけでもインパクトがかなり強い。

 

資料写真とナレーションにより過去と現在の加古村組と尾谷組の関係性が説明される。一緒に見に行った母曰くこのナレーションが極道映画らしさを出しているらしい。これは白石監督の別作品「日本で一番悪い奴ら」でも似たような手法が見られた。

 

 

そしてここから始まる役所広司さんの大上の魅せ場である。私がこの映画を見ようと思ったきっかけは役所広司さんが演じる大上が見たかったというのが大きい。映画「渇き。」で受けた役所広司さんの悪っぽい役の印象はとても大きく、荒れる役所広司というものの素晴らしさを知った。今回の孤狼の血の特報が出た時も役所広司さん演じる大上の見た目や喋り方含めた役柄にグッと惹かれたのだ。

本編で実際に大上を見たらどうだろう。期待を遥か上回る、私の求めていた役所広司さんの姿がそこにあった。

破天荒なやり方での捜査。吼える。怒鳴る。そんな普通ではありえないようなやり方でそこに存在する大上はただ下品に映るのではなく、役所広司さんならではの演技力により巧妙に美しく映っているのだ。独特な雰囲気を纏わせた大上はヤクザよりもヤクザらしく、けれど上品さは損なわれていない素晴らしさがあった。役所広司さんの作品は全部ではないが他にも何作か拝見している。いつも思うのは纏う空気とオーラ、そういう全てのものが役によって全く違う。今回の大上も役の雰囲気的には「渇き。」の時の藤島と似ている部分もある。けれど全くの別人に映るのは役所広司さんの力なのだろう。

 

私は最初大上という刑事のやり方はあまりにも強引且つ破天荒で、とあるシーンで放った「警察だから何してもええんじゃ」というセリフを受けたこともあり刑事としてこれはどうなんだろうと思いつつ見ていた。けれどそれは結局大上の表面しか見ていなかったということを後半で知ることになる。極道組織と癒着し肩入れしていると思われていた大上だが、大上の芯というものは堅気を中心とした堅気のための正義だったのだと思う。表面では悪と捉えられている大上の出来事も蓋を開けて見ればそこには誰かを思う優しさだったり、暖かさがそこにきちんと存在していたのだ。それを知るのは大上が消え、亡くなったことを知った後になるのが悔やまれる。

口に出すことはなくとも、きちんと己の芯があり大上なりの正義を全うする姿は後々に思い出して目頭が熱くなるほどだ。

己の保身ばかりを考える他の警察関係者とは違い、

自分が犠牲になろうとも守りたいものをあらゆる手段で守りに抜く姿はまさにそのものだった。

あぁ、なんてかっこいい。かっこよすぎるじゃないか。大上という男はどこまでかっこいいのだろう。

 

人は表面しか見ようとしない。そして己の保身が1番である。けれど大上という男は芯が熱く己の正義を全うしていた素晴らしい人間だったのではないだろうか。やり方は正しいとは言えない。けれど内なる暖かさと優しさは誰よりも強かったように思える。

孤狼の血。これは大上のことなのだろう。大上=狼。1匹の孤独な狼の中に流れる赤く熱い血。それは流れ出ることもあり、内で熱く滾ることもある。そんな大上を演じる役所広司さんを劇場の大きなスクリーンで見ることが出来て私はとても幸せだった。

 

 

そしてその大上の孤狼の血は、大上の近くにいた日岡に受け継がれたのではないだろうか。

 

 

松坂桃李くん演じる日岡

大上とは真逆の正義を貫く熱血漢のような男。彼は県警本部から大上のことを探りやってきたスパイのような存在だ。最初こそ大上の手段を選ばないやり方に異議を唱え反発していたものの、大上と共に行動しているうちに自分の信じる正義が正しいの?もっと違う何かがあるのではないか?と思い始めるようになる。そして彼も私と同様大上の表面しか見れてないことに気づくのだ。大上の内なる心を知った時には既にもう大上はいなかった。

私は特に後半の大上が亡くなったことを知り、大上の愛用していたジッポを見つけた辺りからの日岡が好きだ。日岡の中で何かのスイッチが入ったかのような、何かが変化したかのようなあのシーンの日岡には震えた。

私は日岡を通して松坂桃李くんの演技力に度肝を抜かれた。今まで彼の色々な役を見てきたけれど、一作のうちにここまでいろんな顔が見れる作品が他にあっただろうか。前半と後半、そして最後の日岡はまるで違ったように見える。特に目だ。

前半の大上に不信感を覚える日岡と、後半の大上を理解し始めた日岡と、最後の大上を受け継いだかのような日岡は皆同じ俳優が演じているのに、こんなにも違って見えるのかととても感動した。

それは決して違う演じ方をしているという訳ではなく、日岡の変化や成長を素晴らしく演じてくれているのだ。松坂桃李くんという俳優の凄さとこれからがとても楽しみだと思って仕方ない。

一見綺麗で線の細いように映る松坂桃李くんだけれど、この骨太な男臭い映画にがっしりとハマっていて見ていてどこか心地良ささえ覚える表現力と馴染み具合だった。きっとこの日岡という役は彼にしか演じることは出来なかっただろうなと思わせる程に。

松坂桃李くんが出てる映画で1番最近見た作品は、彼が主演のR18+の「娼年」だ。当たり前かもしれないが、今作の日岡娼年のリョウはまるで別人だ。

ただただ純粋に松坂桃李という俳優の演技が好きだな、彼の演技をもっと見たいと思った。

 

 

 

私は大上と日岡の真反対のバディ感がたまらなく好きで、大上の血が日岡に受け継がれたような感覚がとてもゾクゾクとした。日岡の報告書に大上が書き加えた文章。あれが1番響いた大上の言葉だったんじゃないかなぁ。そして最後のタバコを咥える日岡は色っぽくてたまらなかった…

 

 

大上と日岡以外にも印象深い役柄が多く、簡素的に感想を述べていきたいと思う。

 

 

 

・一之瀬 守孝 (江口洋介)

尾谷組 若頭

知能指数2みたいなことしか言えなくなるほどに顔が良い…なんだこの色気は…。登場シーンはそう多くはないけれど、その一瞬一瞬の爪痕の残し方が素晴らしすぎる。未だかつてこんな色気ダダ漏れの色男の若頭がいたのだろうか…。特に最後の方のトイレで敵対してる組の頭の首を取りに行くシーン。大好きが詰まりすぎている……。まず銃じゃなくて刀なんだね?刀で殺すんだね?っていう所から始まり、返り血を浴びる姿。切り落とした首を投げ捨てる姿。何もかもが色っぽくてたまらなくカッコ良く、様になっていた。一之瀬のこのシーンを見るためにもう一度行きたいくらい…。とにかくかっこいい。

 

 

 

・高木里佳子(真木よう子)

クラブ梨子のママ

松坂桃李くん演じる日岡が目の演技が光っているとしたら、真木よう子さんの梨子ママは声の演技が好きだった。声に強さや悲しさ、憎しみや怒りが全て表れていてその演じ分けも素晴らしいものだった。強い女素晴らしいな。大上のスクラップブックを日岡に渡し、日岡と外を歩くシーン。過去の事件の犯人が大上なのではないかと疑う日岡にそれは違うという梨子ママ。そこからの真実の告白のシーンは一気に声のトーンが低く強くなり、とても圧倒された。凄い…

 

 

 

・永川恭二 (中村倫也)

尾谷組構成員の1人

出演シーンはそう多くないのにも関わらず物凄い印象を残していく。気性が荒く行動も粗野で荒々しく初登場のシーンから物凄い爪痕を残す。噛み付く所とか犬みたいだ……そして若頭の一之瀬に仕えていて、タバコに火をつけてあげるシーンがあるんだけどめちゃめちゃにここのシーン好きでして…ただ火をつけてあげてるだけなんだが、色気が…

その後鉄砲玉やらされて、自首するために公衆電話から警察に電話。その電話を取ったのが日岡で外を見た日岡と電話ボックスの永川の目が合うシーン。好きだな〜。

 

 

 

・吉田滋 (音尾琢真)

加古村組構成員の1人

音尾琢真さんの演じる怖いんだけど、どこか面白くてダサい役って凄く好きで、今回の吉田もイキっててTheチンピラって感じなのにどこか面白くダサくて笑ってしまった。局部に真珠は面白い…笑

しかもそれを大の大人3人がかりで(大上、日岡、梨子ママ)押さえつけて取っちゃうなんてなんだかクスっとしてしまった。音尾さんのこういう役柄の演技は凄く大好きです。

 

 

・善田大輝 (岩永ジョーイ)

養豚場の息子

救いようのない奴…1番嫌いだったかも(笑)

岩永ジョーイくんはHiGH&LOWとデメキンで拝見した事があるけれどその2つとも全く違う役柄で、初登場シーンであれ?もしかして薬やってる?と思わせる演技ですごいなぁと思った。いつものアクションは見れなかったけれど、こいつ嫌だなと思わせる演技力に凄く魅せられた。

 

 

 

 

 

他にも沢山濃い登場人物や圧倒的存在感で魅せてくる人達が沢山いた。こんなにも素晴らしい作品になったのは演者さん一人一人の素晴らしさあったからこそだと思う。

 

 

大上はもしかしたら多くの人に勘違いされたまま、芯の部分をわかられること無く死んでしまったかもしれない。けれど、日岡や梨子ママのようにきちんと大上を理解した人間もいる。日岡は大上の血を継ぎ大上のように将来孤狼のようになるのかもしれない。

 

大上は死んだ。

けれど大上は日岡の中で生きている。

これから先も生き続けていく。

極道組織というものは根絶しないであろう。

孤狼の血を受け継いだ日岡が今後どう極道組織と関わっていくのか、それが楽しみで仕方ない。

 

 

 

こんなにも熱くなり血が滾るような感覚を覚えた映画は久しぶり。素晴らしい映画に出会えたことに感謝し、また劇場に見に行きたいと思う。こういう映画がまた増えればいいのになぁ。


 


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